ようやく八段審査で女性が一次審査を通過したという時代に

考察

今年行われた八段審査に女性の一次通過が生まれました。現段階で私の知る限り2名の一次通過者が出ました。

ようやくというか、遅すぎるぐらいでは?とも思いましたが、この1次通過によって女性剣士たちにとっては大きな一歩だと思います。保守的な剣道界も一歩前進した事案かもしれません。

なぜ、このタイミングで今まで八段審査において女性が一次審査合格が一人も出ない状況から、ここ1年で急に生まれるようになったのか。考察してみたいと思います。

なぜ今頃になって女性八段への道が開けたのか

今までも優秀な女性剣士は多く存在していました。男性剣士にも負けない戦績を持ち、稽古も積んできた女性剣士は多くいたのは紛れもない事実です。審査においても体格的な個体差には圧倒的に不利な状況であることは間違いありませんが、それでも立ち会いでの打突の機会や攻防などのやり取り、刀法に差はないと私は思っています。

今まで女性が八段審査に挑戦しても一次合格がなかったのは、おそらく剣道界の暗黙の了解とも言われていた「女性の最高段位は七段」というのが通説であったからだと考えられます。

実際の女性剣士の諸先輩方が七段を受け合格すると、「これで君も女性剣士として最高位につけたね」、「女性の七段は八段に匹敵するということなんだよ」などというお言葉を範士の先生からいただいたそうです。

この言葉の裏には「女性は八段審査は受けるなよ」「女性が八段を受けるというのは品位が下がるからやめろ」といっているようなもので、今の時代では通用しない理屈です。

そうした剣道界における男尊女卑の考えが時代とともに変化を余儀なくされてきています。世界剣道連盟も一部ではありますが男尊女卑の考えにはかなり批判的な意見を述べています。

そのような時代的な背景から対応していかなければならない状況になってきたことや、女性剣士八段が生まれない違和感に対する声が今回一次審査に女性が合格した要因があるかもしれません。

おんな武士道〜剣道八段に挑む剣士たち〜の放送

2019年にNHKが放送したおんな武士道〜剣道八段に挑む剣士たち〜の放送が再放送されました。

この番組初回放送時は今よりもまだ剣道界は男性社会の状態で、女性剣士が七段受け合格するということがすごいとされていた時代です。

初回放送当時もNHKはこの女性が審査に受からないという事実を伝えたかったという思いがあって構成され、特集をしているのだと思いますが、再度この令和の時代でまだ女性剣士の一次審査合格者が出ていないという事実が続いている状況を伝えたかったのではないでしょうか?(もしかしたら、全剣連がNHKにお願いした説もあるかもですが・・・考えにくい。)

放送の背景は定かではないですが、この時代に「剣道八段に挑む女性たち」のドキュメントを放送したことは剣道をするものにとっても、審査をする人にとっても、この放送を見る人にとっても考えを見直すきっかけになったことは間違いないと思います。

NHKはこうした社会問題というか、保守的でおかしなところというか、悪しき文化みたいなところをうまく構成して問題提起する番組が昔は多くありました。(今も少しある)今後もこうしたドキュメンタリーに果敢に挑戦してほしいです。

女性剣士のレベルが上がってきているという事実

八段を受験する資格は七段受有後10年以上修行し、かつ、年齢46歳以上の者となっています。早くても46歳から受験ができるということですが、今この年齢に達している女性剣士で身体能力的にも実績的にも、男性剣士に匹敵するレベルの高い選手が多くなってきました。

女性剣士で剣道を続けれるのは、一世代前は教員などの剣士が多く、稽古は部活動の指導が中心で日常的に男性との稽古をあまりできない状況でありましたが(大阪や警視庁などは別)、現代における受験資格を有する46歳以上女性剣士は女性警察特練として男性剣士と一緒に稽古を積んできた女性剣士が盛んに出始めた世代でもあります。

最近1次審査を合格されたM七段は現役時代に県警で男性剣士と稽古をし、全日本選手権でも活躍された選手です。この世代前後ぐらいから警視庁や大阪府警、京都府警など意外でも地方で女性警察特練剣士も多く生まれてきました。

女性特練の剣士が増えてきてから女性剣道界のレベルはかなり上がったように思います。この頃から体格も男性に負けない、技術も攻防も対等にできるような剣士も多くなってきました。

そうした背景もあり、女性剣士のレベルは上がり八段審査で男性に見劣りしない攻防ができるようになってきたため八段審査でも合格できるレベルになってきたのだと思います。

剣道普及のためのきっかけとして女性八段が必要だから?

現在、全日本剣道連盟では女性の剣道離れ、出産、育児などで剣道継続が困難な状況についてなんとかしようと取り組みを開始しています。

この状況を打破するべく女性剣道八段という実績を作り、女性でも八段を目指せるというのをきっかけとして多くの女性剣士にリバ剣や生涯剣道を行ってほしいのではないかと私は考えます。

女性八段が誕生すれば、七段取得から10年は剣道を続けていける動機ができ、目標に向かって進んでいく女性剣士も増えることに繋げていければという思惑もあるのではないでしょうか。

そうした思惑は決して悪いことではないですし、活発化の要因として間違いなく効果はあると思います。

ただし、ここで方向性を間違って欲しくないのは八段合格された女性剣士が普及のための合格に利用されてはいけないということです。

女性八段誕生の理想の形は、今後の女性剣道界において模範となる、女性剣道八段の攻防とは何か、刀法における技術はどのようなものかを表現できているということが大事だと思うのです。

普及のためのセンセーショナルなイメージで女性剣士八段では意味がなく、それではただの客寄せパンダと同じになってしまいます。普及の一手となっても、剣道界の発展には何も寄与することはないでしょう。

あくまでも八段という称号に相応しく、女性剣道の美しさや、攻防の精度、刀法に基づいた技術を身に付けた女性剣士八段の誕生を願っています。

早く剣道界がグローバルスタンダードや時代に追いつき、女性八段が誕生してほしいです。

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