第70回 全日本剣道選手権大会決勝の考察

考察

 今年の全日本は番狂わせが非常に多い試合となりました。緒戦で有力選手が次々と敗退し今までに見ない顔ぶれが多い結果となりましたが、もっとも会場の期待を裏切ったのは決勝戦だったと思います。決勝を見てどうしてあの結果になったのかを考察してみました。

決勝戦は安藤選手(東京)対 村上選手(愛媛)会場やTVを見ていた人たちの大半は安藤選手の初優勝を予想していたでしょう。というのも準決勝の安藤選手の試合は今大会の中でもっとも動きにキレがあり、集中できており、結果として2本勝ちをして決勝につながる良い勝ち方をしていたと思います。

一方で村上選手は初戦からのペースを崩さない、自分の間合いで戦うというスタイルを貫き通していました。動きに関しては安藤選手にスピード、パワーと見ていた人は見劣りをしていたのではないでしょうか。対局的な勝ち上がり方をした二人の明暗を分けたのはなんだったのかをいくつかあげたいと思います。

決勝戦で立ち上がりでペースが狂っていたのでは?

決勝戦、初めの直後に村上選手が、安藤選手の発声する前に攻め入り、仕掛けました。相手に発声をさせないということは体制準備を取らせないことにつながります。

ここで安藤選手は発声する前に防御姿勢を取らざる得ない状況になり、流れるまま小手へ転じます。この一呼吸で安藤選手はペースが少し乱れたように思います。

技は発していないにしても、先をとられた形となり今後の試合展開に影響が出たように思います。

まさか全日本の決勝で始め!の号令でいきなり面に飛び込んでいくなど誰もが思わないわけで、虚をつかれた形になったわけですね。

また、安藤選手は準決勝の時より緊張しており、準決勝の動きとは少しちがっていました。時間があいたことで気持ちの作りなどに影響が出ていたのかもしれません。ちょっとばたついていた印象です。

村上選手はすぐに試合だったため、気持ちが切れずにそのまま試合に望めたのではないでしょうか。こればっかりは先に終わった選手の準備の難しさがあります。

村上選手の懐の深い構えと面のタイミングがつかみにくい

決勝戦は村上選手のメン2本で幕を閉じましたが、村上選手のメンはかなり掴みにくい印象でした。

準決勝の試合を見た時にこのメンにハマる人多いだろうなという印象を受けました。

まずはそのメンについて解説してみます。

継ぎ足をせずに遠間からの面を繰り出していたわけですが、身長があって滞空時間が長く、伸びてくるような面が特徴的です。相手の目線からすると思わずみてしまう、止まってしまう人も多いかもしれません。準決勝の池田選手はまさにみてしまって、体勢を後ろに引いて回避しようとしましたが伸びてくるメンに対処ができていませんでした。

当たったのは面がねでしたが、体勢が崩れているので面ありとなったのでしょう。判断が難しいところではありますが、たいていの場合はあのような体勢で無効になることは少ないです。審判試合規則でははまっていないのですが・・・

このような技を出す選手は他にもいます。

松崎選手も同じようなメンを繰り出す選手と言えるでしょう。女子選手で言うと村山選手とよく似ています。どちらも全日本チャンピオンですね。この面は長身選手にとって必勝のセオリーでしょうか。

その長身を生かしたメン、それに加えてタイミングが非常に掴みにくく、返し胴や出ばなメンは絶対に勝てるタイミングで行かない限り競り負ける可能性が高いのが特徴です。

では、出小手はどうか。これもまた、村上選手は剣先を低く構えており懐が深いため狙いにくいと思います。身長が低ければ狙えますが、安藤選手と身長差はさほどないため、視線から見るとかなり狙いにくかったのではないでしょうか。しかもタイミングが掴みにくい・・・

村上選手を攻略は何が有効?

これは完全な個人の見解です。試合を見てなので実際に試合すると違うかもしれません。

村上選手は自分の間合いに入らない限り、または相手が入ってこない限り我慢をして技を出さないタイプだと思います。リスクを背負わない戦い方をして非常に個人戦向きの選手だと思います。

このような相手には、後の先で勝負するのが有効でしょう。

よく内村選手(警視庁)が打っているメン返しメン、メンすりあげメン、栄花選手が宮崎選手に打ったメン抜き小手、リスクはありますが面を誘っての返し胴といったところでしょうか。

なぜこのような技は有効だと考えられるのか?

継ぎ足をせずにメンをうつと次の技が出ないという欠点があります。まさに1撃にかける技となるため後の先に対応するのが難しいのです。

村上選手のような打ち方は体重が全て左足にかかるので打ち損なったあと相手に後の先を出された後はかなり体勢が崩れるのではないでしょうか。後の先の技があったら展開が変わったかもしれません。

安藤選手が1本目の面を取られるときに右足を前に出していこうとする動作を誘いに変えて返し胴に転じたらバッチりはまったと思います。

そのシーンは安藤選手は打ちきを見せながらいくところ、相手にとっては間合いに入ってしまい、気づいたときには遅かったような展開でしたね。

安藤選手のツキは非常に惜しかったですね。相手の剣先が低いので先をかける技の選択肢として有効でしたが後数センチズレていました。

決定的な勝利の要因は村上選手の間合い

攻略の部分でも書きましたが、村上選手の試合を見ていると自分の間合いを徹底していました。入ってくる相手に対しては、入りぎわで相手が継ぎ足をしようとしている瞬間などに狙いを定めていました。

この打突のタイミングは宮崎先生や大分の竹下選手がよく繰り出す技で、相手に絶対に競り勝てるタイミングです。

しかしながら自分の間合いではない時は徹底して防御に徹する、さばくなどの試合展開が多かったように思います。

先をかけていくタイプの選手からするとこのようなタイプは苦手とするような人が多いかもしれません。

しかも、この戦法はコロナの暫定ルールでは非常に有効です。コロナの暫定ルールは離れる際に剣先が触れないところまで離れる必要があるため、立ち会いはじっくりできる点があるのです。自分の間合いも取りやすく、試合の展開をしやすいように思います。

村上選手はそうした試合展開を徹底されていたことが今回の優勝の要因だったように思います。今後の試合もぜひ頑張ってほしいです。

安藤選手も国士舘の生徒の前での試合ということもあって試合態度が以前より荒ぶるところが少なかったように思います。前はかなり感情が出るような試合をしていていたことがありましたが、非常に好感が持てた試合でした。

最後に試合に出た選手全員に拍手を送りたいです。

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